林経協の提言
● 新しい森林・林業基本計画についての意見
平成18年7月28日
東京都港区赤坂1−9−13 三会堂ビル九階
(社)日本林業経営者協会  会長 速水   亨
東京都渋谷区代々木2023−1−1251
日本林業同友会  会長 海瀬亀太郎
新しい森林・林業基本計画についての意見

公表された新しい森林・林業基本計画(案)は、現行計画に比し意欲ある新しい内容が随所に盛り込まれており、全体として高く評価しておりますが、以下の点につき意見を提出しますので、よろしくお願いします。

1. 項目: 第1 森林及び林業に関する施策についての基本的な方針
1  森林及び林業をめぐる情勢の変化と施策の効果に関する評価を踏まえた新たな計画策定の必要性
(1) 利用可能な資源の充実
意見:

間伐等の施業が十分実施されないことや再造林が行われないことによる将来への懸念と森林所有者の主伐意向の低下が述べられ、間伐やコスト削減への取り組みの必要性が記述されているが、この様な状況になっている原因の記述が欠落している。実態認識に加えて、その原因を明らかにした上で、適切な対策が講じられるべきである。

また、多くの森林所有者は苦しい中でも可能な努力をしていることを前向きに評価しすべきであり、自己の森林をこのように取り扱うこととなっている責任を所有者のみが負うべきものではない。

即ち、基本認識に関わるこの項目で、造林投資のマイナス利回りの現状と林業への支援施策が十分ではないこと等の主な原因を羅列し、「第1の1の(4)」でその具体的内容を記述すべきである。

2. 項目: 同上の(4) 森林及び木材産業の構造改革の立ち遅れ
意見:

林業や木材産業の『所有構造や生産組織の零細性が克服できていない』ことや加工、流通における『大量、安定的、かつ低コストでの供給』の必要性の指摘は、長年にわたって改善されなかったこの問題に正面から取り組む意欲が感じられる。この項目の記載内容を高く評価している。

3. 項目: 第1 森林及び林業に関する施策についての基本的な方針
2 新たな基本計画策定に当たっての基本的視点
意見:

全体として高く評価し、特に、今後の『攻めの林政の展開』に大きく期待している。

4. 項目: 第2 森林の有する多面的機能の発揮並びに林産物の供給及び利用に関する目標
1 目標の達成に向けた取り組みの検証
2 目標設定に当たっての基本的考え方
意見:

現行計画の実行状況の検証を行ったうえで、新計画の『目標設定に当たっての基本的考え方』を記述しているが、『これまで十分とは言えなかった工程管理を適切に実施し、毎年の施策の評価により、翌年度以降の改善に反映させる』ことを明言していることを極めて高く評価したい。しかし、新計画の目標数値の項目は現行計画と変わっていないのが残念である。

従って、農林水産省が『食料・農業・農村基本計画』に基づき、平成17年3月に『食料・農業・農村基本計画工程表』を省議決定したように、今回策定する『森林・林業基本計画』に基づき、これを実現するための多くの項目ついて、年次別達成目標(特に、川上から川下までの総合施策である18年度新規事業の『新生産システム』による数値)を具体的に定めた工程表を別途に作成し、このために必要な施策も明らかにして取り組んでいただきたい。

5. 項目: 第2の3 森林の有する多面的機能の発揮に関する目標
意見:

『森林の区分ごとの望ましい森林への誘導の考え方』が示されているが、育成単層林施業におけるモザイク状の区画皆伐、育成複層林施業における『帯状又は群状の抜き切り等により効率的に複層状態への森林へ誘導』を長い時間をかけて行うという考え方は、わが国の森林の現実実態に即したものであり、この変更を歓迎する。

6. 項目: 同上の(4) 森林の有する多面的機能の発揮に向けて重点的に取り組む事項
@ 国民のニーズに応えた多様で健全な森林への誘導
意見:

この記述のうち、『地方公共団体による森林所有者等への施業の働きかけや、公的機関による森林整備等を促進する』ことには反対する。理由は後述の『第3の1の(1)のB』に同じ。

7. 項目: 第2の4 林産物の供給及び利用に関する目標
(3) 林産物の供給及び利用に向けて重点的に取り組むべき事項
@ 木材の安定供給体制の整備
意見:

『意欲ある事業体の能力を活用しつつ需要者が求める木材を的確に供給できるような生産体制を構築』、『生産コストの縮減を図るための作業ロットの拡大』、『大規模需要先と結びついて木材の生産を行い得る林業事業体』の育成に係る記述は適切である。

この一環として、同一の支援施策による公正な競争条件の下で、地域内の複数の造林・伐採事業体が切磋琢磨して、コスト削減に取り組む競争条件の整備に取り組んでいただきたい。

8. 項目: 同上のA 木材産業の競争力の強化
意見:

『大量、安定的かつ低コストという需要者ニーズに対応し』、『製材加工の大規模化を推進』といった記述は、今後の方向として高く評価できる。川上から川下までの意欲ある者が連携して取り組む18年度からの新規施策である『新生産システム』の成果を検証しつつ、この種の施策の拡充を図っていただきたい。

9. 項目: 同上の第2の4の(4) 林産物の供給及び利用に関する目標
意見:

第2表の木材の供給目標数値は、現行計画の平成22年数値である2500万立方メートルに対し、新計画では平成27年時点で2300万立方メートルとなっている。前計画の実績が平成12年は1906万立方メートル、平成16年は1733万立方メートルであることから、実態に即して下方修正したものと考えられる。

しかし、平成17年の立木価格は3628円/立方メートルと平成12年の半分以下になるなどから、昨今の木材需要者側の動向をみると、国産材利用の拡大に向けて、大きな潮目の変化が生じている。むしろ、当協会としては、この価格を前提とした国産材需要増大は、再造林放棄の拡大を惹起するのではないかとの危惧を抱いている。

従って、経営意欲が高まる林業振興施策の徹底した充実と併せ、より高い供給目標数値とすべきであり、平成27年時点の計画量は、少なくとも現行計画の平成22年数値に変更していただきたい。

10. 項目: 第3 森林及び林業に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
1 森林の有する多面的機能の発揮に関する施策
(1) 多様で健全な森林への誘導に向けた効率的・効果的な整備
@ 広葉樹林化、長伐期等による多様な森林の整備
意見:

『長伐期等による多様な森林に向けた整備』、『帯状又は群状の伐採等の効率的な施業を推進』、『森林所有者の負担の軽減を図るため、造林・保育等の効率化・低コスト化を推進』、『天然力を活用した森林整備を推進することができるよう、森林計画制度や保安林制度の運用の見直し』などへの言及は高く評価できる。

これを実現するための支援施策や低コストに向けた創意工夫を林業者に喚起するための育林技術の開発、経営手法の改善を促進する支援施策を明示する必要がある。

3世代を要する育成複層林等の長伐期化は山林相続税の軽減策が無くては実現し得ない。

また、現行の森林整備地域活動支援交付金について、持続可能な森林管理を約束し、一定レベルの経営計画の認定を受けた経営体や経営受託を行う森林組合等を対象に、一層の環境管理を行う経営体には、対象作業範囲を拡大し、森林の内容や施業方法、規模の状況等に応じて、林業経営の再生のために必要となる経費を一括して直接支払う交付金方式や環境管理によって生じる所得のマイナス分を保証する制度などの施策を早急に導入していただきたい。

11. 項目: 同上のB 公的な関与による森林整備の促進
意見:

平成12年度のスギ山元立木価格は、7794円/立方メートルで造林投資の利回りは、補助金のないスギでマイナス1,7%であり、ヒノキと補助金を受けたスギは極めて低利であるが、利回りが確保できていた。

その後の利回りの公表はなされていないが、国産材立木価格が半分以下に低落したことから、補助金を受けているかどうかに関らず、すべての造林利回りはマイナスになっていると考えられる。

このような中で、再造林や必要な保育がなされない事例(いわゆる施業放棄森林)が増えており、公的管理の必要性を提起したものと思われる。

公的関与の具体的手段としては、

国又は地方自治体による働きかけの手段として、施業履行の勧告制度の拡大やペナルティの賦課
林業公社などの公的機関の出資事業体による施業放棄森林所有者との分収造林契約の締結
などが考えられる。
@について

現状では経済合理性のない育林を私有林所有者に強制すること、かつ膨大な施業放棄森林所有者に例外なくこれを求めることの影響は余りにも大きい。これを円滑に実行するには、経済合理性のある林業の成立が前提になるが、これが確保されるならこの手段を導入する必要はないものと考えている。

Aについて

分収造林契約の内容は、現状の林業経営の収益性を前提に決定されるものであるから、現在は経済行為としての分収造林契約は不可能と考えられる。このような状況下で伐採時に森林所有者に一定割合の金額提供を約束するとなれば、それは公的機関が特定の者に利益提供を行うことでもある。公益性発揮を求められる箇所や自然災害復旧などを除き、一般の林地でこれを行うことの国民的合意はできていないと思われる。

次に、これができるのであれば、私有林所有者の殆どは希望すると思われる。このための資金は膨大であり、特定の者を選別して実施せざるを得ないことになる。現在でも公的造林の分収造林対象地の選択の透明性は確保されているとは限らず、特に、面積規模のまとまりが必要なことから小面積所有者は対象外とならざるを得ない。

第3に再造林放棄地が主な対象になることから、同じ経営条件の下で、努力しない者を優遇することになり、公的機関がモラルハザードを助長することになる。

第4に公的機関の造林は画一的森林造成につながりかねない。

第5に再造林放棄地を造林する場合、伐採後速やかに造林する場合と比較して、数倍のコストがかかる。国内林業にコストダウンが求められている時代のこのような施策は、流れに逆行するものであり、再造林放棄を発生させない施策こそ必要であり、コストダウンにつながる。

即ち、当両会としては、真正面から私有林経営が活性化する施策を講じることが最も安価で多様な森林の整備につながるものであり、公的管理の強化には反対意見を申し上げる次第である。

12. 項目: 同上のC 多様な森林関連情報の提供の推進
意見:

森林の集約化、事業体育成、原木の安定供給の実現するためには、実用性のある森林・経営情報は不可欠であり、この記述を高く評価している。

森林は濃淡はあれ公益性を有しており、国民的支援を得て育成・整備がなされていることから、森林組合が公的負担で森林情報を整備し、情報公開の例外として、これを地域社会に広く公開できる仕組みをつくる必要ある。

13. 項目: 同上のF 社会的コスト負担
意見:

森林整備のためには、新たな財源措置が必須の要件である。同時にこのことへの国民的理解を得るためには、既述の造林・保育等の効率化・低コスト化の推進に向けた林業者の自助努力の取り組み喚起や林業事業体の競争条件の整備など新たな財源が効率的に森林整備に結びつくことの国民への十分な説明が必要となる。

このためにも、新しい施策を早急に提示する必要があり、新基本計画策定後は、引き続いてこの計画を実現するための具体的数意目標の設定や有効な施策についての論議・検討を進めていただきたい。

14. 項目: 第3 森林及び林業に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
1 森林の有する多面的機能の発揮に関する施策
(2) 国土の保全等の推進
D 野生鳥獣の生息動向に応じた効果的な森林被害対策の推進
意見:

『被害や生息の動向に応じた広域的かつ効果的な森林被害対策を推進』する旨を記述しているが、地域によってこの被害は甚大であり、一般論ではなく、正確な生息数の調査、地域社会の理解が得られる合理的な生息数管理方式の導入基準の作成、被害補償制度の確立、被害地保安林の施業要件の見直しなど、関係省庁と連携した広範囲な対策を確立することを念頭に置いた記述としていただきたい。

15. 項目: 同上の(3)技術の開発及び普及
意見:

施業放棄の解消やコストダウンに向けて、苗木の生産から根本的な合理化を目指した研究開発が緊急に必要。変化のない育林体系を科学的な技術の研究集積によって、実践的で思い切った合理化につながる研究体制の早急な構築を念頭に置いた記述としていただきたい。

16. 項目: 同上の第3の2 林業の持続的かつ健全な発展に関する施策
(1) 望ましい林業構造の確立
@ 林業経営の規模の拡大等
意見:

施業の集約化施策は、行政当局が長年にわたって取り組んできた課題である。補助等の優遇措置の適用を受けるための形式的な集約化では効果は期待できないので、単に施業計画を共同樹立するものは除外し、将来に亘って経営そのものの受託が継続実施できる契約を締結するなど、実態を伴う集約化に限定した取り扱いとしていただきたい。

また、森林整備地域活動交付金制度を活用して『施業の集約化のための働きかけ』を集約化推進事例として優遇する措置を検討しているように受け取れる記載であるが、基本的には、森林所有者が補助金や交付金を地方自治体に直接請求し、その使途の説明責任を果たして、自己の森林を適切に管理できるような施策が最も望ましいことである。

従って、優良な推進事例の第1順位は、所有面積の大小を問わず経営が危機に瀕していることを直視し、自立経営の維持とし、第2順位を『実態を伴う集約化』とすることを念頭においた記述としていただきたい。

17. 項目: 同上の第3の3 林産物の供給及び利用の確保に関する施策
(1) 木材の安定供給体制の整備
(2) 木材産業の競争力の強化
(3) 製材・加工の大規模化のための支援の選択と集中
意見: 記述に賛同する。理由は既述の7、8、9のとおり。
18. 項目: 第4 森林及び林業に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
1 施策の工程管理と評価
意見: 既述の4のとおり。
19. 項目: 同上第4の2 財政措置の効率的かつ重点的な運用
意見: 既述の13のとおり。
■ <作業道と人工林>
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