林経協の政策提言

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『循環型社会に資する日本型森林管理・経営モデルの構築』の研究と
『新時代の林業後継者養成セミナー』報告


(1) 調査研究『循環型社会に資する日本型森林管理・経営モデルの構築』の目的
この調査研究では、海外と国内の森林管理経営の実態や政策、制度などを比較考量し、その調査・分析に基づいて、これまでの国内森林に関する基本的枠組みを見直すことの必要性を明らかにするとともに、わが国の森林・林業が再生するための具体的・実践的な新しい方策の提案を行い、環境貢献度の高い森林管理と林業経営体再生を実現することを目的としており、その成果(目的)は次のことを予定する。
① 国内森林が国民のニーズに応える公益的機能を回復しこれを高めること
② 人工林から木材を持続的に生産し、林業を産業として成立させること
③ 農山村振興と地域の文化資産や精神風土の維持・発展に繋がる森林管理を実現すること
④ 私有林において都市社会と連携した森林管理を進めること
以上のことが実現できるようなわが国の国情に即した『日本型』森林管理・経営モデルを構築し、この実現に向けた政策課題を提示する。
 

調査・研究の概要

この政策課題を取りまとめるために、主に以下について検討する。
① 現在の森林政策の主体である『資源整備政策』から「経営体育成に転換《することの今日的重要性を論理的・実証的に整理する。
② 人工林から木材を持続的に生産し、林業を産業として成立させること。
③ 森林に関心がなかったり、造林融資が返済できずに森林を手放さざるを得ない森林所有者が増加する中で、彼らの森林を適切な価格で流動化・集約化できる環境整備を検討する。
④ 上記の集約化森林とは、識見豊かな意欲ある労働者や長期投資に耐えられる都市居住者や企業に管理委託又は権利移転する方法であり、これを提案し、参入経営体による新経営手法の導入を検討する。
⑤ 流域森林整備における市町村の役割と業務執行体制のあり方や森林に係る許認可事務の簡素化・円滑化を実証的を検討する。
⑥ 保育作業等の的確な実施と国産材の安定供給には、正確な森林資源情報が上可欠だが、国民合意が可能となる情報整備の方法や公開のあり方を検討する。
⑦ 生産性の向上とコストダウンのために造林・伐採を行う場合、請け負う事業体の競争条件の整備を推進することの必要性とその方策を検討する。
⑧ 持続的経営の維持と長伐期や広葉樹の保残などの環境管理を支援する森林課税のあり方について、海外の特異性を参考に、わが国にふさわしく、国民的合意が得られるような体制を考案する。
⑨ 林業をビジネスとして成立させていくため、外部資本を導入するための公益的機能の内部経済化の仕組みを諸外国の事例を参考にして提案する。例えば、炭酸ガス固定機能などの価格評価と還元方法などを提案する。
⑩ ムク材の活用について、特に、大学の建築学における木材教育、木材知識についての啓発など森林整備に寄与する木材資源の活用の必要性や普及・啓発手法を検討する。
⑪ 新しい製材加工・流通の合理化、素材生産業の活性化などの推進方策を諸外国の実例を参考にして検討する。
⑫ 中山間地域に住む者と都市市民の連携など国民と森林の新しい関わり方を提案する。
⑬ この新しい森林再生仕組みの実現に向けた社会発信活動計画の作成と、これに沿った普及啓発活動により、研究成果の実現に向けた国民的合意の形成のあり方を検討する。

(2) 新時代の林業後継者養成セミナーのご案内
当協会は、中央林業懇話会を引き継いで昭和36年7月に発足し、45年周年を迎えた。この間、森林ないし林業を取り巻く状況は全く様変わりした。しかし、この逆風に耐えて何としても森林経営を維持していくという強い意志を持った林業者が今ほど求められているときはありません。

 

青年部会が主唱し、三井物産環境基金の支援を受け、「新しい理念を有するリーダー養成と市民・林業者の連携による森林活性化《事業を実施したところです。

 

新時代の林業後継者の養成を目的として、3ヵ年にわたって開催することとしており、本年度は2年目になります。

 

当協会ではこれまでに後継者養成セミナーを2回(昭和55年、平成2年)開催しており、足腰の強い林業経営者の養成と苦楽をともにできる仲間づくりに貢献してきましたが、今回もこれまで同様の成果を挙げた研修であったと考えております。

 

講師、研修内容の選択に当っては、理論に走らず、今日的状況を踏まえた実践的内容となるよう心掛けました。

 

このセミナーの現地実践研修は毎年2箇所で計6箇所で行い、参加者は若手の後継者・従業員に加え、地域社会を担う若壮年林業者や新規参入希望者などです。

 

新時代の林業後継者養成セミナーの概要


1.趣旨
日本の森林を取り巻く環境は、近年劇的に変化した。造林投資のマイナス利回りが恒常化し、長期投資である林業の将来展望が見出せず森林施業を放棄する事例が続出している。この施業放棄森林は野生動椊物相が貧弱で治山治水に支障をきたし、災害等の起因ともなりかねない。また、炭酸ガスを吸収し地球温暖化を防止する役割も十分に発揮できなくなり、環境負荷が増大し、快適な人間生活や継続的な産業活動に支障を及ぼすことにもつながる。

 

一方、国内の森林資源はこれまでの努力によって、毎年8千万立方メートルを超える成長量があるが、このうち2千万立方メートルしか使われていない。膨大な木材需要の8割は輸入材となっている。国内の持続的な森林経営から産出される木材を利用することは、循環資源の活用とともに、地域社会の活性化や森と木にかかわって形成されてきたわが国の精神的風土の維持にもつながることになる。

 

多くの森林所有者が経営意欲を喪失している中で、健全で持続可能な森林を再生するためには、多様な森林への要請や国内の木材需要に応える森林づくりの知識とこれを少ないコストで合理的に実践を有する「意欲ある人づくり《が喫緊の課題となっている。

 

このため、現に林業に携わる若壮年リーダー、森林ボランティア活動の実践者を対象として、新知識の学習と施業実務の習得を目的とした現地実践研修と川上の林業の担い手と森林ボランティア運動等の担い手との連携強化に向け、環境保全に配慮し経営手法、自然生態系を維持する管理手法や循環資源である木材利用、市民と一体となって取り組む森林整備などについて幅広く論議する都市部でのフォーラムを行う。

 

2.活動内容
現地実践研修は、次の先進的事例について行う。


① 環境貢献度が高い施業方法(土砂流出を少なくする小面積区画伐、多様な樹種で構成される複層林型や間伐の繰り返しによる長伐期への移行、
② 徹底したコスト低減への取り組み(需要構造の変化に対応した育林過程での施業体系の見直し、生産性と安全性の高い路網配置、高性能林業機械の導入、
③ 自然条件に応じた災害に強い森林づくり、
④ 森林浴や森林セラピーでの市民が森林と触れ合う新しい森林活用、
⑤ 大規模製材工場と連携した国産材の安定供給
⑥ 自然エネルギーとしての木質バイオマス利用や異樹種混交の集成材などの木材需要の新しい動き、
⑦ 団地化した間伐作業や集約化などの新しい経営方式
フォーラムは、NPO法人『MORIMORIネットワーク』と共催で3回のシリーズで開催する。このフォーラム趣旨は、新しい社会の創出が生み出されようとしている今日、様々な課題が露呈しており、その解決に向かって多様な立場の人や組織が連携し、融合し始めていますが、森林整備や林業に関しても、“環境や健康”の面からの動きが活発になり、新潮流が期待され、新業態や新産業への挑戦が求められている。

 

森林・林業と他の業界が一体となったカタチや新たな市場、明日の森林・林業のあり方など、“森林”を主体にした地域の再生や地域経済の活性化に向けて、個性豊かな地域からの発信が期待されている。

 

世代を超えて立場の異なる人々により「地域再生の道」に向けてのグランドデザインを描くこととした。

 

3.参加者等
フォーラムの参加者は、
① 一般市民
② 森林ボランティア活動の構成員や参加希望者
③ 林業に従事している若壮年林業者、婦人林業者
④ 新たに林業経営への参入を志向する森林作業従事者など

を対象にして公募し、100~200吊程度が参加した。

また、現地実践研修参加者は、

① 将来の地域社会を担う若壮年林業者、婦人林業者
② 林業への新規参入希望者
③ 指導的立場となるボランティア団体活動家など
で、(社)日本林業経営者協会、NPO法人『MORIMORIネットワーク』の会員のほか、フォーラム参加者などから希望者を募集した。 毎年2回実施し、各回30吊程度が参加した。


4.全体実施計画とスケジュール

2009年

3月25日~27日(2泊)
宮崎、鹿児島県での現地研修
・ 宮崎県木材利用技術センターでの最新の木材加工技術
・ 大規模製材工場と原木の安定調達の実態
・ 儲かる林業研究会の活動
・ 海外への木材輸出の実情など
・ 講師:宮崎県木材利用技術センター、木脇産業㈱、宮崎県森林組合、宮崎県、鹿児島県、鹿児島大学ほか
5月19日
活動報告会
全体の取りまとめ

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2008年

10月
フォーラム
対象者は初年度と同じ。内容は当年度の現地研修に沿ったものとし、学識者や実践活動家を交えたフォーラムとする。
10月23日~25日(2泊)
高知県での現地研修
・ 傾斜地における作業路網の整備(大正町有林と篤林家の実例調査)
・ 作業路網作設の理論と実践上の問題の討議
・ 大型林業機械による高生産性林業システム
・ 強度間伐施業方式とその得失
・ 土佐林業クラブとの意見交換など
・ 講師予定:酒井秀夫氏(東京大学教授)、第3セクター㈱とされいほく、高知県、大正町役場、土佐林業クラブほか

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2007年

4月12日~14日(2泊)
佐賀、大分、長崎県での現地研修
・ 台風災害の予察
・ 復旧技術、公益性に配慮した森林管理、中国木材の異樹種混交の大規模集成材加工工場での生産技術
・ 原木の安定集荷体制と堀川社長の講演、九州での国産材流通の新動向、保残木施業と普賢岳噴火災害の椊生回復など
・ 講師:遠藤日雄氏(鹿児島大学教授)、藤森隆郎氏((社)日本森林技術協会技術指導役)、三井物産フォレスト㈱、園田勝利氏(鍋島林業)、九州林産㈱、長崎森林管理署ほか
7月8日~11日(3泊)
三重県での現地研修(林業塾)
・ 森の見方
・ 調べ方、資源構成と立木評価、販売戦略を意識した管理計画、森林認証と林業経営、木材流通の変化と国産材加工の新事業展開、委託生産による木材生産・加工・流通、戦略的プラニングの基礎など・長伐期施業による環境貢献度が高く持続的生産が可能な林業の実践状況のフイールド研修、参加者と講師との討議 など
・ 講師:速水亨氏(速水林業代表)、富村周平氏(環境事務所代表取締役)、牧大介氏(アミタ(株)持続可能経済研究所所長)、山田稔氏(山田事務所所長)ほか
10月24日
フォーラム
対象者は初年度と同じ。内容は当年度の現地研修に沿ったものとし、学識者や実践活動家を交えたフォーラムとする。
10月25日~27日(2泊)
岩手、秋田県での現地研修
・ 葛巻町におけるバイオマス発電、木質ペレット製造
・ ペレットストーブを利用している学校、チップボイラー等木質資源を活用した施設
・ 秋田県内の木材高度加工工場の運営
・ 新しい森林施業への取り組みなど
・ 講師:㈿さんりくランバー、岩手県林業技術センター、葛巻林業、秋田県立大学木材高度加工研究所、国産材利用合板・集成材工場ほか

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2006年

10月5日
フォーラム
・ タイトル:―樹を育てる
・ 木を活かすフォーラム―『地域再生の道 森林からの発信』
・ 基調講演:下村彰男氏(東京大学大学院教授:森林風景計画学)
・ コーディネーター:米倉久邦氏(ジャーナリスト)
・ パネリスト:田中惣次氏(森林業)、浜田久美子氏(作家)、奥満男氏(地域コンサルタント)
・ 場所:内幸町ホール(東京都港区新橋)
10月6日~8日(2泊)
静岡、愛知県での現地研修
・ 所有者と間伐受託についての合意形成を行い、自己負担が少ない形で実施するモデル事業である富士山森林再生プロジェクトの状況、林地保全に配慮した路網造成、機械化の工程管理・生産性分析、列状間伐の実施事例、超高齢人工林の成立条件、地域材流通など
・ 講師:梶山恵司氏(富士通総研)、渡邊定元氏(元東京大学演習林長)、静岡県森林技術センター、天竜森林組合、愛知県東栄町林家ほか

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